仙台三題噺「一番町」「羽生結弦」「ミネラルウォーター」

どうも!仙台つーしんのバラサです!

先週、今週の月曜に仙台三題噺という新しいシリーズの話を書きました。

三題噺というのは、与えられた3つの言葉を使って短い物語を書くというものです。

今回は、羽生選手の金メダルに仙台が沸いたその日を舞台に書いてみました!

 

「一番町」「羽生結弦」「ミネラルウォーター」

「じゃあ明日、10時にディズスト前で!」

僕は昨日の井上さんとの会話を思い返していた。スマホの電源をつけてみると、今が217日の943であることを示していた。少し、来るのが早すぎたのかもしれない。僕はあたりを見回した。まだ井上さんは来ていないようだ。

井上さんとは高校の図書委員で知り合った。僕は放課後いつも図書室で本を読んでいて、図書室そのものが好きだからいつも図書委員をしている。僕が2年生になり、いつもと同じように放課後図書室で本を読んでいると、ほとんど毎日同じ女の子をみかけるようになった。その子が新入生で、名前が井上紗希ということを、新年度1回目の図書委員の集まりで知った。僕が井上さんと話すのはいつも事務的なことだったけれど、ブックカバーに隠された彼女の手にしている本が何なのか、僕はいつも気になっていた。

ある日、彼女がめずらしくブックカバーのつけていない本を手にしていた。それは、「君の膵臓をたべたい」だった。とうやら、それは図書室の本で、だからブックカバーを付けていないんだと思った。

「あれ?『君の膵臓をたべたい』じゃん。僕もそれ、凄い好きなんだよね」と僕は思わず声をかけた。すると、いつもはおとなしい井上さんが「ホントですか!?この本、いつもよく借りられてて、さっき返した人がいたので読んでみてるんですけど、すっごくおもしろいです!」と、とても大きな声で嬉しそうにそう言った。

「それ、予想を裏切られるようなラストなんだけど、それがまた良いんだよね」

「そうなんですか!?速く最後まで読みたいです。あっ、でも読み終わりたくもないというか、ずっとこのドキドキ感を味わっていたいというか、とにかく面白いですよね!」

「分かる!面白い本を読んでるときって、この本を読んでるときの気持ちがずっと続けば良いのにって思うよね!」

こうして僕と井上さんは仲良くなった。話してみると、僕も井上さんも「僕は明日、昨日のきみとデートする」や「星の王子さま」、「あしながおじさん」が好きで、お互いに本の趣味がよく似ていることが分かった。僕らは放課後の図書室でよく、面白い本の情報を交換し合った。井上さんに勧められて読んだ宮下奈都の「羊と鋼の森」はとても面白かったし、僕が紹介したアンドレ・ジッドの「田園交響楽」を井上さんはとても気に入ってくれた。僕が井上さんを好きになるのに、そう時間はかからなかった。

「来週からテストじゃないですか。テスト期間だと勉強ばっかりで全然本読めなくなるからホント嫌ですよね」

今週の月曜、放課後図書室で勉強をしていると隣にいた井上さんはそう呟いた。「私、数学大っ嫌いなんですよ」とも。僕は数学が一番の得意科目なので、「良かったら数学教えようか?1年生の問題だったら教えられると思うし」と返した。

「ホントですか?齋藤先輩(これは僕の名前だ)に教えてもらえるなら、いっぱい頑張れそうです!」

「じゃあ、明日の放課後教科書持ってきてくれたら教えるよ」

そして、火曜から金曜まで、僕は自分の勉強の合間に井上さんに数学を教えた。ときおり、最近読んだ本の感想なんかを話しながら、僕らはとても楽しく勉強ができた。こんなに勉強をしていて楽しいと思ったことはそれまでになかった。それに、井上さんは僕の言うことをよく理解して、微分の基礎をしっかりと身に着けた。きっとこれまでは嫌いだって気持ちが先行して、数学を避けてきただけなのだろう。

「すごい!齋藤先輩に教えてもらうとどんどん頭が良くなってくみたいです!私、勉強がこんなに楽しいと思ったのは初めてです!」

「そんな、大げさだよ。きっと井上さんは数学に対して変な苦手意識があるだけで、本当はやればできるんだよ」

「でも、私いままで先生の授業聞いてても全然頭に入ってこなかったし、やっぱり先輩のおかげだと思います!・・・だから、もし迷惑じゃなければ明日も一緒に勉強してくれませんか?」

そうして、僕らは翌日土曜の朝10時ディズスト前で待ち合わせることにした。ディズスト前で女の子と待ち合わせるなんて、僕にとって初めてのことだった。「これじゃまるでデートみたいじゃないか」と、緊張してなかなか寝付くことができなかった。

「すみません!待ちましたか?」

その言葉に僕は顔を上げた。そこには初めて見る私服姿の井上さんがいた。髪には見たことのない髪飾りがついていた。僕は思わず、「可愛い」と思った。

「全然待ってないよ。じゃあ、今日は勉強頑張ろうね」

そして僕らは一番町のマックに入り、僕はシェーク、井上さんはコーヒーを買った。そして、テーブル席について勉強を始めた。周りには僕らと同じように勉強をしている高校生がたくさんいた。中にはカップルで勉強している高校生もいる。僕と井上さんは、周りからどう見られているんだろう。僕はそればかりが気になって、勉強どころではなかった。

それでも、形上は互いに黙々と勉強を進め、時折井上さんは僕に質問をして、僕はそれに応えた。12時を過ぎ、ハンバーガーを買ってお昼休憩を取りながら、僕らはテストが終わったら読みたいと思っている本について話した。僕は宮下奈都の「つぼみ」、井上さんはアンドレ・ジッドの「狭き門」を読みたいと言った。それは、以前互いに勧めた本と同じ著者のモノだった。

「そういえば、今日は羽生くんの出番ですよね。仙台駅でパブリックビューイングやるみたいなんですけど、良かったら行きませんか?正直、私もう勉強はお腹いっぱいです」

僕は正直周りからの目が気になって勉強どころではなかったので、「そうだよね。息抜きも必要だよね」と言い、僕らは仙台駅に向かうことにした。

仙台駅に着くと、そこにはすでにたくさんの人で溢れていた。僕らは3階に上がり、手すりに寄りかかりながらその大きなスクリーンを眺めた。井上さんは、「すごい大きいですね!やっぱり来て良かったです!」とはしゃいでいた。

しばらくして羽生くんの演技が始まった。今日一日中、井上さんが隣にいてドキドキしてばかりだったけど、それでもやはり見とれてしまうほど、羽生くんの演技は素晴らしかった。井上さんは「羽生くん、私けっこう地元が近いんですよ。だから余計に応援しちゃうんですよね!」と言い、熱い視線をスクリーンに送っていた。

羽生くんは難しいジャンプを次々に決め、優雅に氷上を滑った。ケガで数か月滑れなかったとは思えない、とても力強い演技だった。最後にこぶしを大きく突き上げると、大きな歓声が上がった。そして317.85という点数が表示されると、またしても大きな歓声が上がった。井上さんは「ヤッター!暫定1位ですよ!私、感動しちゃいました!」と、とても嬉しそうにはしゃぎながら言った。

そして、「なんだかはしゃぎ過ぎて熱くなっちゃいました」と言うと、カバンからミネラルウォーターを取り出して飲んだ。僕はその横顔を見て、「僕はやっぱりこの子が好きなんだ」と思った。体中の血液が顔に昇ってくるのを感じた。

「先輩、顔真っ赤ですよ。水、飲みますか?」

井上さんはそう言って、僕にミネラルウォーターを差し出した。でも、これはいわゆる間接キスってやつじゃないだろうか。僕が飲んで大丈夫なんだろうか。井上さんは、何も気にならないんだろうか。

そうは思ったけど、きっと悩んだら負けだと思い「ありがとう」と言ってそのミネラルウォーターを受け取り、口にした。そしてそのミネラルウォーターを返そうと井上さんを見ると、井上さんの顔は心なしかさっきよりも赤くなっているように見えた。

「ホント、思わず熱くなっちゃったね」

僕は言った。

「ホント、熱いですね」

井上さんは真っ赤な顔を手で仰ぎながらそう言った。

 


 

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