仙台三題噺「仙台駅東口」「こけし」「メガネ」

どうも!仙台つーしんのバラサです!

仙台三題噺も今回で5回目です。

思い付きで初めてみましたが、とりあえずの目標として「このお題でやってください」っていうコメントが来たら良いなと思います。

その次は、「自分も書いてみたので仙台つーしんに載せてください!」って人がいたら最高ですね。

今回の話はちょっと長くなってしまって、読むのに15分くらいかかると思います。

それではどうぞ!

 

「仙台駅東口」「こけし」「メガネ」

「私がそのこけしを見つけたのは仙台駅の東口でした」

男はそう言って話し始めた。その時僕は、国分町の行きつけのバーに来ていた。僕はバーに入ると、いつもと同じようにレッドアイを注文した。このバーのレッドアイはとても美味い。トマトジュースにかなりこだわっているようだし、ビールとトマトジュースの割合が絶妙だ。僕はそのレッドアイを飲みながら、仕事の疲れが癒されていくのを感じていた。僕は誰かに相談したいことがあるといつもバーのマスターに話を聞いてもらう。そのときも僕はマスターに聞いてもらいたい話があったのだけれど、そのときマスターは他の男性客と何か話をしていた。その男は、見たところ50歳前後に見えた。僕はその話が終わるのを待とうと思い、ナッツをつまみながらレッドアイを飲んだ。そしてそれを飲み干し、もう一杯レッドアイを注文しようとマスターに声をかけた。するとマスターは僕とその男の両方に目をやり、そういえばお二人はよくうちにいらっしゃいますが、会うのは初めてですよねと言った。そして、「ちょうど今も話していたんですが、この方はとても不思議な体験をしたんだそうです」と言って僕にその男を紹介した。そして、「良かったら、こちらのお客さんにももう一度お話して頂けませんか?私だけではどうもうまく話を理解できそうにないですから」と続けた。聞いてみると、それはどうやらこけしにまつわる話らしかった。その男は、あるとき不思議なこけしを手にしたらしい。マスターがそのことを簡単に説明すると、今度は男が「私がそのこけしを見つけたのは仙台駅の東口でした」と話し始めた。

「私はそのとき、東口で知り合いと待ち合わせをしていました。私は時間よりもかなり早く着いてしまったので、ベンチに座って本でも読んで待とうと思いました。そして、ベンチに移動して座ろうとすると、植え込みの中に何かが落ちていることに気がつきました。それがそのこけしだったのです。そのこけしはとても変わったこけしでした。というのも、そのこけしの顔には、メガネが描かれていたのです。私は、メガネをかけたこけしというのをそのとき初めて目にしました。『こんなこけしもあるんだなあ』と思ったのを覚えています。しかし私は、そのこけしのことは気にせずに本を読もうとしました。けれども、何故かそのこけしのことが気になって文章が頭に入ってきませんでした。それに、こけしが落ちているのをそのままにしておくのはどうも不気味な感じがしました。それが、あるいはただのペットボトルだったらそのまま放っておいたろうと思います。でも、こけしが落ちているのを放っておくことはどうしてもできませんでした。それで、私はそのこけしを駅の落し物センターに届けたんです。それで何となく気分もスッキリしました。そのあとは知り合いと会って無事に用事を済ませることができました。それから数日の間は、そのこけしのことなんてすっかり頭の中から消えてしまっていました。それが、ある日突然家に見覚えのない届け物が来たのです。中身を空けると、そこにはそのこけしと、1枚の便箋が入っていました。その便箋には『こけしを拾っていただきありがとうございます。このこけしは実は当社の新商品です。メガネを毎日擦り続けるとやがてメガネのインクが取れるようになっていまして、メガネが消えるとお客様の目が良くなる不思議なこけしです。拾っていただいたお礼に、是非お使いいただければと思います』というようなことと、聞いたことのない会社の名前が書かれていました。私が落し物センターにこけしを届けたとき、確かに連絡先と住所を紙に書かされましたが、勝手にこんな物を送ってくるなんてずいぶん勝手なことをするもんだと思いました。私はそんなことを思いながらも、試しにそのこけしのメガネの部分を手で擦ってみました。しばらく擦っていると、確かにメガネの部分だけが少し薄くなったように感じました。私は、こんなことで目が良くなる願掛けをする人がいるのか疑問でした。その便箋には『願掛けのこけし』などといった言葉ではなくて、はっきりと『目が良くなる』と書いていました。私はかなり怪しいと思いました。迷惑な物を送られたと思いました。処分しようかと思いました。けれども、これも不思議なもので、こけしを処分しようと思うと、それも何だか良くないことのように思いました。だから、『だから』というのもおかしいのですが、私は毎日そのこけしのメガネを擦り続けたのです。自分でも、なんで毎日そんなことをしたのだろうかと今思うと不思議に思います。どうしてかは分からないけれど、私は毎日そのこけしを擦り続けました。そのメガネは徐々に薄くなっていき、そしてやがて完全に消えました。すると不思議なことに、いや、もちろんこんなことを言っても信じては貰えないだろうと思うんですが、本当に私の視力が回復したのです。回復したというよりも、強化されたと言った方が良いかもしれません。私はもともと極度の近眼だったのですが、視力を測り直してみると両目ともに視力が2.5になっていました。もちろん私は驚きました。こんなことを言っても誰にも信じて貰えないでしょうけど、私自身が一番信じられないのです。私はそのこけしを送ってきた会社を調べようと思い、会社名の書いてあったあの便箋を探しました。けれども、どれだけ探してもそれは見つかりませんでした。その便箋を捨てた記憶は全くないのですが、どこを探しても見つかりません。便箋のことはあきらめて今度はネットで調べてみると、確かにメガネをかけたこけしというのは存在するのですが、私の手元に届いたようなこけしはいくら探しても見つけることができませんでした。私は不気味で仕方ありませんでした。だから、周囲にもこの話をすることができませんでした。もともと私はメガネをかけていたのですが、今ではそのメガネをつけるとその度数の強さに気分が悪くなってしまいます。かといってメガネを着けずにいれば、周囲から変に思われるでしょう?だから、度の入っていないメガネを買ったんです。それがこのメガネです」

その男はそう言って僕にメガネを渡した。そのメガネには確かに度が入っていなかった。僕はそのメガネを手にしながら、はたしてこの男の話は本当なのだろうかと考えていた。すると、「どうやら疑っているようですね」とその男は言った。「でもこの話にはまだ続きがあるんです」とも。そして男はまた話し始めた。

「私には毎日の習慣があるんですが、毎朝太極拳の練習を行っているんです。毎朝、7時からきっかり30分間です。私の家は愛宕大橋を長町方面に少し行ったところにあるのですが、毎朝その近くにある広瀬川の河川敷で練習を行っています。河川敷の道幅が広がっているところで、対岸の方を見ながらです。目が良くなってからというもの、太極拳の動きをしている間にも、今まで目に入ってこなかったものが見えるようになりました。それは、川の流れる輝きであったり、木々の青さであったり、そういったものが本当に鮮明に見えるようになったんです。目が良くなったことは誰にも話すことができずにいましたし、もちろんそのことである種不気味な思いをしていたのですが、しかしそういった景色を目にすることができるようになったというだけで、やがてこれは十分に素晴らしいことなんだと思うようになりました。その気持ちは今の私にとっても変わらないことです。その日も、いつもと同じように太極拳の練習を行っていました。そして、自分の目に映る風景の鮮明さに感動を覚えながら、対岸の風景を眺めました。すると、ふと対岸にあるマンションのベランダにおじいさんが立っているのが目に入りました。私にはそのおじいさんの表情すらはっきりと目にすることができました。だから、そのおじいさんの表情が苦しみに変わるのも見逃しませんでした。おじいさんの表情が変わった一瞬の後に、おじいさんが倒れるのが見えました。私は慌てました。そしてそのマンションまで走りました。自分の記憶を頼りに、どうにかその部屋まで辿りつきました。その部屋は2階の一番端っこの部屋だったので間違えずに辿り着くことができました。私はドアをドンドンと叩き、『大丈夫ですか?』と大きな声で聞きました。もちろん、返事はありません。私はドアを開けようとしましたが、ドアには鍵がかかっていました。なので、今度は隣の部屋のドアをドンドンと叩きました。その部屋の住人はかなり警戒した様子でドアを少しだけあけました。私は、隣のおじいさんがベランダで倒れる様子を対岸からみえたのだ、様子を確認して欲しいと話しました。その人はかなり怪しがっていましたが、それでも確認すると言ってくれました。そしてドアを一度閉めました。その数秒後に、『おじいさん!』という大きな声が聞こえました。おじいさんが倒れているのを目にしたんだろうと思いました。すると今度は、何かが割れるような大きな音がしました。恐らく、ベランダの仕切りを突き破ったのだろうと思います。そして今度は、『救急車をお願いします』という声が聞こえました。そして私は救急車を呼び、やがてそのおじいさんは病院に運ばれて行きました。そのとき、少しいろいろとあったのですが、私が行きがかり上病院に着いていくことになりました。幸いにも、おじいさんの命に別状はありませんでした。けれども、あと少し処置が遅れればどうなったかは分からないということでした。発見が早かったおかげで、数日入院するだけで退院できるだろうということでした。その翌日、私はこれも何かの縁だと思って改めてそのおじいさんのお見舞いに行きました。そのおじいさんの病室に行くと、もちろんおじいさんは私のことが分からないわけですが、お医者さんから自分が運ばれてきた経緯は聞いていたようで、私がおじいさんが倒れたのを見つけた人間だと知るととても丁寧にお礼を言ってくれました。私は、そのあまりの丁寧さに、自分が来ることでかえって余計な気を使わせてしまったのではないだろうかと感じました。それに、こうやってお見舞いに来てみたものの、おじいさんと何を話せば良いのかがまるで分かりませんでした。私は、そんなことはあらかじめ考えておいてやっぱり来るべきじゃなかったのだと思いました。だから、簡単に挨拶だけをして席を立とうと思いました。と、そのときふとベッドの脇にある棚にちいさなこけしが置かれているのが目に入ったのです。そのこけしは、私が手にしたその不思議なこけしとよく似ていました。私は、そのことがどうしても偶然のことには感じられませんでした。でも何をどう聞いたら良いか、まるで分かりませんでした。だから、ただ単に『こけしがお好きなんですか?』と聞いてみたのです。話を聞いてみると、そのおじいさんは元々こけし職人だということが分かりました。高齢であることと奥さんを亡くしたことを理由に引退して、資産を処分して今のマンションに越してきたということでした。おじいさんには子供も弟子もおらず、自分の代で技術を途絶えさせてしまったことをひどく悔いているのだと話しました。そして、その棚にあるこけしはおじいさんが自分でつくったというのでした。おじいさんが倒れたときに着ていた服のポケットに入っていたんだそうです。もちろん、私はひどく驚きました。そして、自分が拾った不思議なこけしの話をしました。そのこけしがおじいさんのつくったこけしととてもよく似ているのだとも。おじいさんは私の話をとても興味深そうに聴いてくれました。そして、是非そのこけしを見てみたいと言いました。次の日、私はそのこけしを持っておじいさんの病室を訪ねました。そして、おじいさんにそのこけしを見せました。そのこけしを目にすると、おじいさんは目を大きく見開きました。唖然としてこけしを見つめました。『このこけしは確かに私がつくったものです。間違いありません。自分がつくったこけしを見間違いはしません』と言いました。もちろん私も唖然としました。私は念のため、メガネをかけたこけしをつくったことがあるかと尋ねました。けれども、そのようなこけしはつくったことがないと言います。私は、なにがなんだか訳が分からなくなりました。でも、そのこけしはおじいさんの手に渡るべきだと思いました。だから私は、一体どういう縁かは分からないけれど、このこけしを是非貰って欲しいと言いました。だってそうでしょう。私の視力が良くなったのはそのこけしのおかげで、私の視力が良くなったおかげでおじいさんの命は助かったのです。そのこけしはきっと、おじいさんを助けるために私を選び、私の前に現れたのだろうと思いました。だから私はそのこけしをおじいさんに渡しました。おじいさんはそのこけしを手に取ると、長い間そのこけしを見つめていました。数分の間、私とおじいさんの間には沈黙が流れました。やがて、おじいさんはそのこけしをじっと見つめたまま、小さく頷きました。私はその様子をただじっと眺めていました。それからというもの、その出来事がどうも頭から離れないのです。これは私の人生にとってどういう意味があるのだろうか。おじいさんにとってどういう意味があるのだろうかと。けれども、考えれば考える程分からなくなってしまいます。私はもう一度おじいさんに会いたいと思いました。会って話がしたいと思いました。けれども、私はおじいさんと会う手段を失ってしまいました。というのも、後日病院を訪れるとおじいさんはすでに退院していましたし、思い切って自宅まで伺ったのですが、どうやらおじいさんはどこかへ引っ越してしまったようでした。私はそのことを隣人から聞きました。隣人は、おじいさんが引っ越したことは知っていましたが、どこへ引っ越したかは分からないようでした。その後もおじいさんと会う手段を色々と考えてみたのですが、どう考えてもおじいさんとは会えそうにありません。そして、そのこけしが手元を離れた今となっては、この出来事が本当に起きたことなのかどうかも怪しく思えてきます。考えれば考える程、自分の頭がおかしくなってしまったのではないかと思ってしまいます。けれども、少なくとも私の視力は確かに良くなっています。それは、昔の健康診断の結果を見れば分かります。どうです?あなたはこの話を信じてくれますか?もし信じてくれるのなら、この話にはどんな意味があると思いますか?」

男はそう言うと、僕のことをじっと見つめた。僕は何と言って良いか分からなかった。だから、僕は何かを考え込むようにレッドアイの入ったグラスをじっと見つめた。そして、「どうでしょう。あなたが嘘を言っているようには感じられません。でも、やはり本当のこととはどうしても思えないのも事実です。その話には、当事者にしか感じられないような何かがあるのではないでしょうか」と言った。

 

「そうです。その通りなのです。私にとって、この話を信じてもらえるかどうか、本当かどうかは些細なことです。私にとって重要なことは、おじいさんがそのこけしを手にして、沈黙の後に小さく頷いた、その瞬間に立ち会えたということです。もっと言えばそのような記憶を手にしたということです。その瞬間、おじいさんはきっと何かに赦されたのだろうと私は思いました。そのような瞬間が、人生には確かに存在する。私はそのことを実感として得ることができたのです。その邂逅は、これからの私の人生を構成する重要な一部になるだろうと思っています。そこにどのような意味があるのかは分かりません。分かりはしないのですが、けれどもとにかくそれは私自身の重要な一部になると思うのです。私が今感じているのは、ただそれだけです」

 

男はそこまで話すと、ウイスキーの入ったグラスを静かに口に運んだ。僕はまだ話の続きがあるだろうと思ってしばらくの間その男に耳を傾けていた。けれども、その男がそれ以上何かを口にすることはなかった。後には、不思議な余韻だけが残った。

 


 

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