仙台三題噺「定禅寺通」「カラーボトル」「星の王子さま」

どうも!仙台つーしんのバラサです!

皆さんはゴールデンウィークをいかがお過ごしですか?

バラサはやるべきことがたくさんあるんですが、現実逃避してこの話を書いていました。

昼間定禅寺通を歩いたらケヤキ並木がとても綺麗で、そういえばカラーボトルの歌詞に定禅寺通が出てくるのあったよなと思って話を考えてみました。

もしかしたら、今日の定禅寺通にこんなカップルもいたかもしれません。

 

「定禅寺通」「カラーボトル」「星の王子さま」

 

「分かったよ。雅人の言う通りにする」

理沙が僕との別れを受け入れるまでには、3か月に亘る話し合いを要していた。

僕と理沙は高1の夏に付き合い始めた。理沙とどんなきっかけで仲良くなったのかはもはや思い出せないくらい、あっという間に仲良くなって、あっという間に付き合うことになった。それは、春が終われば夏が来るようにとても自然なことだった。出会ってすぐ、僕は理沙に惹かれ、理沙は僕に惹かれていった。

でも、僕と理沙はまるで違うタイプの人間だ。僕は学生時代のほとんど全てを部活に捧げていたけれど、理沙はいつも学級委員なんかをやっていたし、いつも本を読んで過ごしていた。僕と理沙に共通することなんてほとんど何もないくらいだった。でも、高校生の頃はそんなことは全く気にならなかった。僕と理沙は幸運なことに3年間同じクラスになることができたし、暇さえあれば僕と理沙は話をしていた。僕は部活のことを話し、理沙は読んだ本の話をした。お互いに全く違うことを話しているのに、僕と理沙は理解し合っていた。どうしてそんなことができたのか、今では不思議に思うのだけれど。

高校を卒業して、理沙は東北大の法学部に、僕は地元の私大に進んだ。本当は理沙は京大に行きたかったのだと思う。理沙は隠していたつもりだろうけど、僕にはちゃんと分かっていた。でも理沙は仙台に残ることを選んだ。その頃は単純に、理沙は僕を選んだのだと思い嬉しくなっていた。僕は中学生の頃は勉強しなくても良い成績が取れたから苦労もせずナンバースクールに入れたけれど、部活のため、そして理沙に会うためだけに3年間高校に通い続けた結果、僕の選択肢は数少ない地元の私大だけになっていた。本当は東京の大学からスポーツ特待生としての誘いがあったけど、理沙と離れることなんて考えられなかった。

大学生になっても、僕は変わらず部活に情熱を注いだ。そして、理沙は以前にも増して熱心に勉強をするようになった。僕は部活のキャプテンとして如何にチームをまとめるかに尽力し、理沙は政治学の難しい本を読んではどうすれば世の中の格差がなくなるかについて真剣に考えた。

僕は如何に授業数を減らせるかを考えて授業を取っていたから、その頃はまだ理沙と会う時間はたくさんあった。僕はよく東北大のキャンパスに入り、理沙と一緒に学食を食べながらお互いの話をした。

僕は中学から大学までの10年間、部活に熱い情熱を注いだ。そして、僕は後輩たちの面倒を見るのが好きなんだと知った。嬉しいことに僕のことを慕ってくれる後輩はたくさんいた。部活の後輩の面倒を見るのと同じような感覚で仕事ができたら良いと思って就職活動をした結果、運よく自分の大学の職員になることができた。僕は学生課に配属になり、学生たちの就職活動の世話をするようになった。僕は学生の相談に乗るのが上手かったし、どれだけたくさんの学生の相手をしても、全く疲れなかった。すぐにこれは自分の天職だと気付いた。内定が決まった学生からお礼の言葉や手紙を貰えるようになり、その気持ちはますます強くなった。

次第に僕は、就職活動以外のことについても学生から様々な相談を寄せられるようになった。それに対しても僕は精一杯向き合った。そうして、僕はきっとこの限られた狭い世界の中で、こんな風に一人一人と向き合いながらこれから先の数十年を過ごすんだろうと思うようになった。

理沙は大学院に進み、以前にも増して大学にいる時間が長くなった。理沙はいつも難しい本を読んでいた。僕は理沙のことを理解しようと、理沙が手にする本を読んでみたことがある。でも、僕には全く理解できなかった。それはまるで、僕には理沙の考えていることが理解できないかのようで、理沙が自分から遠ざかっているかのように感じた。理沙は土日関係なく大学にいたから、僕らの会う時間は徐々に少なくなっていった。

このままではいけないと思った僕は東北大の近くにアパートを借りて一人暮らしを始めた。僕と理沙はほとんど毎日のように夕飯を共にするようになった。僕は、これで理沙と一緒にいる時間が増えると思って安心した。

ある日、僕のアパートに理沙の参考書が置かれたままになっていることに気づいた。どうやら、その前日泊まったときに勉強していたのがそのままになっていたみたいだった。その中に、見たことのない外国語のパンフレットがあることに気付いた。それは大学のパンフレットに見えた。僕は胸騒ぎがした。

その夜僕は理沙にパンフレットのことを問いただした。理沙はそれを隣のゼミに来ている留学生の大学のパンフレットだと言った。いったいどんな大学から来ているのかが気になり、たまたま大学にそのパンフレットがあるのを見つけて持ってきたと言う。その言葉を聞いた僕は、理沙は嘘はついてないものの、何かを隠していると思った。

僕はしつこく理沙を問いただした。これはいったい何なのかと。何かをごまかそうとしたって、僕にはすぐ分かることくらい知っているだろうと。僕の執拗な問いかけにようやく観念した理沙は、それは留学したいと思っている大学のパンフレットだと言った。僕が、どうしてそんなことを隠す必要があるんだと訊くと、短期間の留学ではなくて、長期の留学がしたいからだと言った。それはノルウェイの大学で、ノルウェイの福祉を学ぶために留学がしたい。けれどもそうした場合、仙台に帰って来ることはきっとできなくなる。だから隠したのだと言った。その言葉に対して、僕の口からは何の言葉も出て来なくなった。理沙のことは何でも応援したいけれど、理沙と離れ離れになることなんて考えたくもない。

悩んだ結果、僕は理沙との別れを決意した。理沙を引き留めようとか、僕もノルウェイについて行こうとか、遠距離恋愛をしながらまた一緒にいられる方法を考えるべきではないかとか、まあ色々と考えた。でも、そのどれもが間違ったことのように思えた。もちろん、理沙と別れることだって間違っている。でもそもそも、僕と理沙にはもう正しい選択肢なんて何もないんだと思った。

星の王子さまの作者は、「愛は、お互いを見つめ合うことではなく、ともに同じ方向を見つめることである」と言ったらしい。僕と理沙は、最初から違う世界にいた。僕と理沙は、違う世界から互いを見つめようとしてきた。けれども僕と理沙の世界はどんどん遠ざかっていき、互いの進む方向はまるで正反対になっていた。お互いの進む方向に、相手の姿はない。だから僕と理沙は、進む方向から後ろを振り返って互いを見た。それが、互いが前に進むことを妨げていると気付きながら。

「お互いが、それぞれに進むべき方向を真っ直ぐに見つめること」

ともに同じ方向を見つめるためには、そうするしかないんじゃないか。そのために、僕と理沙は別れなければならない。

理沙にそう話すと、そんなのは間違ってると言った。

「どうせ全部間違ってるんなら、私は雅人と別れたくなんてない。雅人は何も分かってないよ。私がこうやって一生懸命に勉強できるのだって、全部雅人と一緒にいられるおかげなんだから。もし雅人と別れたら、そもそも勉強なんかできっこないよ」

それから、理沙はこんなことも言った。

「私はね、自分みたいな人間が世の中をダメにしてるんだって思うの。私みたいな人間が理屈をこねくり回して変な制度をつくって、世の中を混乱させてるんだって。そうやって混乱した世の中で、雅人みたいな立派な人が、一生懸命一人一人と向き合って、少しづつ小さなことを解決しながら世の中は成り立ってるんだろうって、そう思うの。でも、私は雅人みたいにはなれない。私みたいな人間は結局、理屈をこねくり回してつくられた変な制度を直すために、理屈をこねくり回すしかないんだよ。私は雅人のことを尊敬しているし、雅人の隣にいるからこそ、雅人みたいに世の中を支えている人たちを邪魔しない世の中をつくりたいって思えるの」

けれども最終的に、理沙は別れを受け入れてくれた。理沙は教授や両親と相談し、429日に日本を発つことに決めた。理沙は最後に、一緒に仙台の街並みを歩きたいと言った。

今朝、理沙がアパートのチャイムを鳴らしてドアを開けた。そこには髪を短く切った理沙がいた。僕の驚いた様子に理沙は「ありきたりだけどさ、気持ちをスッキリさせようと思ってね」と言った。

僕と理沙は仙台駅までバスで向かい、理沙の荷物を預けてから定禅寺通に向かってアーケードを歩いた。アーケードを歩きながら、理沙は、ここのカラオケは体育祭の打ち上げでみんなで行ったよねとか、あそこのお店は一緒にいったけどいまいちだったよねとか、色んな思い出話をした。僕も話したいことは山のようにあったはずなのに、「うん」とか、「そうだね」とか、そういった言葉しか出てこなかった。そうして定禅寺通までたどり着いた。定禅寺通では日差しが新緑のケヤキ並木を通り抜けて、光のシャワーが降り注いでいるかのようだった。僕と理沙はどちらともなくベンチに座り、その輝くケヤキ並木を見上げた。

「キレイだね」

「うん」

「こんなに素敵な季節なのに、私たち別れるんだよね」

「そうだよ」

「そんなの、絶対間違ってるよね」

「そうだよ、絶対間違ってる」

「世の中の恋人たちはさ、これからのゴールデンウィークを一緒に楽しく過ごすんだよ。皆きっと、幸せな気持ちでいっぱいだよ。そんなときに別れるなんて、絶対間違ってるよね」

「うん、間違ってる」

僕のその言葉に、理沙は「そうだよねえ」と自分に言い聞かせるように言った。

「ねえ、覚えてる? 私たちが初めて手を繋いだのって、定禅寺通だったよね?」

「覚えてる。天にも昇る思いってこういうこと言うんだなって思ったの、すごい覚えてる」

「カラーボトルの『合鍵』の中で、『初めて手をつないだ定禅寺通り』って歌詞あるでしょ。その曲聞いてはそのときのこと思い出してたんだよね。辛いこととか、悲しいことがあったときときは特にさ、よく聞いたなあ」

「高校生の頃はよく一緒に歌ったよね。その歌詞のところだけ二人でハモって何回も繰り返してさ」

僕はそう言いながら、自分が泣いていることに気付いた。僕は、きっと泣くのは理沙の方だと思っていた。でも、理沙はとても落ち着いていた。泣く気配はまるでなかった。僕の方だけが涙を流していた。理沙はそんな僕を見て、「はい、これ」と言って僕のポケットにアパートの合鍵を入れた。そして僕の手を握った。

「これからは『合鍵』がほんとうに別れの歌になっちゃうなあ。多分、私はノルウェイで『合鍵』を聞きながら雅人のことを思い出して泣くんだよ。何回も何回もさ」

理沙のその言葉に僕の目からはまた涙が溢れ出した。僕は理沙を抱きしめたい衝動に駆られた。でもそんなのは無責任だと思った。別れを切り出したのは僕なんだ。僕が理沙に別れを告げたんだ。

理沙はまたケヤキ並木を見上げ、また「こんなに素敵な季節なのに、私たち別れるんだよ」と言った。

「そんなの、絶対に間違ってるよ」

僕の目からは涙が止めどなく流れ、何も言うことができなかった。

 

 


 

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