仙台三題噺「西公園」「牛タン」「マスク」④

 

どうも!仙台つーしんのバラサです!

この話も4週目ですが、どこまで続くか分からなくなってしまった感があります。

とりあえずまだ読んでくれてる人はいるみたいなので、懲りずに続けていきたいと思います。

これまでの話はこちらからどうぞ。

「西公園」「牛タン」「マスク」

「西公園」「牛タン」「マスク」②

「西公園」「牛タン」「マスク」③

 

「西公園」「牛タン」「マスク」④

ある時、大場さんに呼ばれて居酒屋に行くと、そこには取引先の女の子がいた。いつもとは違う、少しオシャレで小綺麗なお店だった。僕は何となく、大場さんが僕とこの子をくっ付けようとしているのだと気付いた。そうでなければ大場さんが見知らぬ人を呼ぶはずがない。大場さんは僕とその子(菅原さんといった)に話をさせようとした。大場さんが「こいつは小説を読むのが好きなんだよ」と言って僕に話を振ったけれど、僕はいつも大場さんに話すようには話せなかった。僕はただ「僕はこんなところでいったい何をしているんだ?」としか思えなかった。僕が愛しているのは麗香だけなんだ。僕はこんなところでこんなことをするべきじゃないんだ。そういう僕の気持ちが態度に出ていたのか、場ははんとなく白けた雰囲気になった。大場さんはそれを察したのか、早々にその場を切り上げ、菅原さんを仙台駅へと送っていき、僕は一人アパートへと歩いた。僕は、無性に腹が立っていた。大場さんがこんな無神経なことをするとは思っていなかった。

間もなく家に着くというとき、大場さんから電話がかかってきた。

「さっきは悪かったな。もし良かったらもう1軒行かないか?」

正直言って僕は気分が悪かった。どこかへ行く気分にはなれなかった。僕は、もうアパートの前にいるし、申し訳ないが疲れてしまったので眠りたいと言った。大場さんは、「ほんと悪かったな。今度埋め合わせするよ」と言った。僕は、大場さんのその言葉にも、何故だかは分からないけれど本当に腹が立った。どうして自分はこんなに腹が立っているんだろうと考え、それは自分が麗香に振られて、それが巡り巡ってこういう状況を生み出しているからなのだと思った。僕は、そんな状況を生み出してしまった自分に腹が立っているのだ。そう思うと、今度はひどく落ち込んだ。僕はこれから、何度もこんなことを繰り返すんだろうか? 僕はその悲しさに涙を流した。

次の日営業先から帰る途中、車の中で大場さんはまた「昨日は悪かった」と言った。

「でも教えて欲しいんだ。俺は何かお前の気に障ることをしただろうか?」

大場さんにそう言われ、僕は悩んだけれど「去年4年半付き合った彼女に振られて、どうしてもその子のことが忘れられないんです。昨日はきっと大場さんの好意でそういう場をつくって頂いたと思うんですけど、申し訳ないですが当分そういう気持ちにはなれそうにないんです」と言った。僕がそう言うと、大場さんは少しの間何かを考え、「そうか、それは悪いことをした。本当に申し訳ない」とだけ言った。そして大場さんにしては珍しく黙ってしまった。車中には気まずい雰囲気が流れた。

それから数日後、大場さんは僕に「お前、明日の夜空いてるか?」と聞いた。僕が空いているというと、「悪いけど付き合ってくれよ。この前の埋め合わせさせてくれ」と言った。その次の日、大場さんに連れられて行ったお店は見るからに高級そうな小料理屋だった。店に入ると、僕と大場さんは個室に案内された。そして間もなく見たことのないような料理が小鉢に入れられて運ばれてきた。恐る恐るそれを口に運ぶと、驚くほど美味しかった。僕は、「こんな良いお店に連れてきてもらって良かったんですか?」と尋ねた。

「金払えなんて言わないから安心しろよ。言っただろ、埋め合わせするって。まあ、こんなんで埋め合わせになるかは分からないけどさ」

大場さんはそう言うと、改まった様子で「この前は本当に悪かった」と言った。

「言い訳するみたいだけど、実を言うとあの子、お前のことが気になってたみたいなんだ。お前はいつ飲みに誘っても断らないしきっと彼女もいないだろうと思って、良かれと思ったんだけど、余計なことしちまったな。こういうことはいつもはもっと慎重にやるんだけどさ、俺もどうかしちまってたよ。本当に申し訳ない。もうこんなことはしないよ」

大場さんは柄にもなく神妙な様子でそう話した。僕はそんな大場さんを見るのは嫌だった。そもそも悪いのは僕の方なんだと思った。悪いのは、麗香に振られてしまうような自分なのだ。僕はいつもとは違う大場さんの様子に耐えられず、いつも以上にたくさんのビールを飲んだ。大場さんも、いつも以上に飲んでいた。そして、大場さんはいつもとは違う話をし始めた。

大場さんは、「俺は実は、大学を卒業して初めに就職したのは会計事務所だったんだ」と話し始めた。大場さんは、事務仕事がめっぽう出来ず、次から次へとやってくる仕事を上手くこなせない毎日が続いた中で心を病んでしまったのだという。そして次第に仕事を休みがちになった。始めは週に1回だったのが、週に2回になり、1週間休み続けたときもあった。そんな日々が続き、大場さんはあるとき所長の自分を見る目が以前とは違っていることに気付いてしまった。その視線が怖くて仕方なかった。そうして余計に仕事を休むようになった。大場さんは、自分のことを責め続けた。どうして自分はこんなんなんだろう? 一生懸命頑張りたいと思っているのに、どうしてこんなに何もできないのだろう? そんな言葉が頭をグルグルと回っていた。

ある時、いつも大場さんのことを心配してくれていた先輩に勧められて精神科に行くとうつ病だと診断された。その先輩(藤田さんというらしい)もかつてうつ病になったことがあったらしい。そして藤田さんはこう言った。

「大場、お前はダメな奴なんかじゃないんだ。今のお前に必要なのは、ただ休むことだ。仕事なんか全部ほっぽり出して、休まなくちゃいけないんだ」

そうして大場さんは休職した。仕事を休んでる間も、藤田さんはよく大場さんの家を訪ねた。「どうせまともに食べてないんだろ」と言って、デパートで買った豪華な弁当をいつも持ってきてくれた。そして藤田さんはいつも小説の話をした。藤田さんは特にサリンジャーが好きだった。「フラニーとズーイ」を読んで以来、目の前の人を神様だと思って接しようと思ってるんだと話した。大場さんは、頭がぼーっとしてその話をうまく理解できなかったけれど、藤田さんと一緒だとちゃんとモノを食べることができた。そして少しずつ心が回復していった。

何か月か病院に通い続け、自分でも以前とは心の軽さが違ってると思った頃、大場さんは仕事を辞める決心をした。藤田さんも、「大場がそう思うなら、俺は応援するよ」と言ってくれた。でもまだ、仕事に就くのは怖かった。 幸い、それまで貯めたお金で当面なんとか暮らしていくことができそうだった。大場さんは、当面は藤田さんがいつも話してくれた本を読んで過ごそうと思った。そして、本を読むだけの毎日が始まった。

大場さんはまず、サリンジャーの小説を全部読んだ。それから、フィツジェラルド、カズオイシグロを読み、村上春樹、夏目漱石を読むようになった。その頃の大場さんにとって、読書だけが生きている実感を与えてくれた。大場さんは週に12回程度人と話さずに済むような日雇いのバイトをして、それ以外はほとんど本を読んで過ごした。藤田さんはその頃も時折豪華な弁当を持って大場さんの家を訪ねた。藤田さんがやってくると、大場さんはサリンジャーの話をした。藤田さんはその話を聞き、大場さんの登場人物の捉え方がユニークだと言った。そして藤田さんは、文学好きが集まるバーがあるんだけど、大場も良かったら一緒に行かないかと言った。サリンジャーの話ができる人もいると。大場さんはそれまで数か月薬を飲み続けていてお酒を断っていたけれど、その頃には薬も飲まずに済むようになっていた。だから、久しぶりに外に出てお酒を飲むのも良いかもしれないと思った。大場さんは長い間人と会うのが怖くて、ひどいときはコンビニに行くことすらできなかった。けれども、藤田さんと一緒で、そこにいる人たちがサリンジャーを読んでいるのなら、大丈夫かもしれないと思った。

大場さんは藤田さんにそのバーへ連れられ、すぐにそのバーのことが気に入った。そのバーは、「HOLLY'S CAT」という名前だった。それはカポーティの「ティファニーで朝食を」に出てくるホリー・ゴライトリーの飼っているネコを意味しているらしい。その猫には名前がない。ホリーが何も所有したくないがためにその猫に名前をつけなかったように、「HOLLY'S CAT」は誰のモノでもないのだという意味が込められているらしい。

大場さんはそのバーにいると心が安らいだ。藤田さんと一緒に何度か訪れたあと、大場さんは一人で「HOLLY'S CAT」に通うようになった。そして見知らぬ人達とサリンジャーや村上春樹の話をした。「HOLLY'S CAT」のマスターとも顔なじみになった。ある時マスターに仕事は何をしているのかと尋ねられ、実は色々と事情があって無職なのだというと、良ければうちで働かないかと誘われた。次の仕事が決まるまでで構わないからと。それは大場さんにとって願ってもない話だった。この店にいられるなら自分はきっと大丈夫だろうし、それにそろそろ自分も働く必要があると思っていた。そして大場さんは「HOLLY'S CAT」で働き始めた。

HOLLY'S CAT」で働き始めて、大場さんは自分が人の話を引き出すのが上手いのだと気付いた。人の話を引き出すには、その人が考えてることを自分が話せば良いのだということに気付き、そして自分は相手の考えてることを理解するのが得意なのだと知った。大場さんはカウンターに立ち、カクテルを作りながらたくさんの人の話を聞いた。いつしか、「自分は大場さんのファンだ」と公言する人が現れるようになった。次第に大場さんのファンは増えていった。その人たちは、大場さんに悩み事を打ち明け、大場さんの意見を求めた。大場さんは、かつて藤田さんが自分を支えてくれたように、できるだけ人の役に立ちたいと思った。でも、大場さんがそういった人たちに何か意見を言うことはなかった。大場さんは、その人の中にある本当の想いに気付かせるのが大切なのだと思っていた。そうしているうちに、大場さんはまた一つ自分の才能に気付いた。大場さんは、出会うべき人同士を繋ぐ能力に長けていた。大場さんは、人から本当の想いを引き出し、その人が例えば「自分は本当はモノを書く仕事がしたかったのだ」と言えばライターのお客さんを紹介したし、その人が例えば「自分は仕事に打ち込みたいと思っていたけれど、本当は恋人が欲しかったのかもしれない」と言えば、その人にお似合いの人物を紹介した。もちろん、全ての人に対してそんなことをする訳ではなかったけど、この人は信用できる人だと思えば、同じく信用できる人を紹介した。そしてほとんどの場合、大場さんの計らいは上手くいった。

「だからあの子がお前のことを気になってるって気づいたときも、それと同じように上手くできると思ったんだ。俺はお前には恋人が必要だと勝手に思ってたからさ。でも、俺はお前の気持ちを考えるのを忘れてしまっていた。そんな簡単なことを見逃すくらい、多分俺はお前に肩入れしすぎてるんだ」

大場さんがカナさんと出会ったのはそんな頃だった。

 

(もっと続く)


 

これまでの仙台三題噺はこちら!

「西公園」「牛タン」「マスク」

「西公園」「牛タン」「マスク」②

「西公園」「牛タン」「マスク」③

「一番町」「羽生結弦」「ミネラルウォーター」

「定禅寺通」「伊達政宗」「腕時計」

「定禅寺通」「カラーボトル」「星の王子さま」

「仙台駅東口」「こけし」「メガネ」

EKITUZI」「マーボー焼きそば」「スニーカー」

「七北田公園」「牛タンジャーキー」「クジラ」

「錦町公園」「笹かまぼこ」「化粧水」

 


 

 

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