仙台三題噺「ぶらんどーむ一番町」「七夕まつり」「イヤホン」

どうも!仙台つーしんのバラサです!

一昨日7月7日は七夕ですが、仙台の七夕と言えば8月6日から8日までの3日間、そして8月5日の前夜祭ですよね。

と言うことで今回はあと1か月後に迫った七夕まつりのお話を書いてみました。

これを読んで七夕まつりに行きたいって思ってもらえたら嬉しいです!

 

「ぶらんどーむ一番町」「七夕まつり」「イヤホン」

高山さんに話しかけられたとき、僕はぶらんどーむ一番町のベンチに座って『七夕の月』を読んでいた。高山さんは僕を見つけると「えっ? 東村くんじゃない? こんなとこで何してるの?」と言った。僕は説明するのが面倒だったので、ここで読書すると集中できるんだと答えた。

「へ~、そんなものなの? それで東村くんは何読んでるの?」

僕は本を閉じて『七夕の月』を見せた。高山さんは『七夕の月』を開くと、「えっ? これ小学生向けみたいな感じ。東村くんなんか可愛いの読んでるんだね。ね、ちょっと読んでも良い?」と言った。「まあ、別に良いけど」と僕が言うと、高山さんは僕の隣に座って『七夕の月』を読み始めた。読むものを取られてしまった僕は仕方なくカバンから『夜のピクニック』を取り出して読み始めた。

高山さんはすぐに読むのを止めてどこかへ行くだろうと思ったけれど、そんな気配は見せずにすっかり読み入ってるようだった。僕はまあ良いかと思って『夜のピクニック』を読み続けた。結局、高山さんは30分くらいかけて『七夕の月』を最後まで読んだ。

「この本すごい面白いね。なんか感動しちゃった。七夕行ったら絶対『七夕の月』見ようって思っちゃうよね、これ。はい、ありがとう。」

高山さんはそう言って僕に『七夕の月』を返した。『七夕の月』の中では、吹き流しの中から上を見たときに見えるくす玉が「七夕の月」として表現されている。高山さんはきっと、クラスの友達と七夕に行くんだろう。もしかしたら彼氏がいて、彼氏と一緒に行ったりするのかもしれない。

僕は「そうなんだよ、面白いんだよコレ」とだけ言って高山さんから『七夕の月』を受け取るとそれをカバンにしまった。僕は、高山さんはそのままどこかへ行くだろうと思ってまた『夜のピクニック』を読み始めたけれど、高山さんはベンチに座ったまま僕が本を読むのを見ていた。

「東村くんって、休み時間もずっと本読んでるよね。いつもここで本読んでるの?」

高山さんがそう話しかけてきたので、僕は頭を上げて高山さんを向き、「いつもって訳でもないけど、でも土曜日の今頃はここにいることが多いかな」と答えた。

「私、本読みたいって思ってるんだけど一人だとなかなか読めなくてさ、邪魔じゃなかったらまたここに来て本読んでも良い?」

「まあ、僕は別に構わないけど」

「ホント? じゃあまた来週ここ来るね。じゃあ私行くから、また学校でね」

そう言って高山さんは去っていった。なんだったんだろう? と僕は思った。また来週来るって言ってたけれど、なんだか変な奴だなと思った。まあ、こんなところで本を読んでいる自分も大概変な奴だけれど。

それから、土曜日の午後は本当に高山さんが来るようになった。僕と高山さんはほとんど一言も話さずに、お互いただ黙々と本を読み進めた。高山さんは30分で帰ることもあれば、2時間くらい熱心に本を読み続けることもあった。高山さんは始め「これ、最近映画化されてすごく流行ってるよね」と言って『羊と鋼の森』を読んでいた。それを読み終えると「ねえ、何か東村くんのオススメ教えてよ」と言ったので僕はそのときカバンに入っていた『いちご同盟』を貸した。そして『いちご同盟』を読み終えると「やっぱりたくさん本を読んでる人に面白い本教えてもらうのが一番だよね」と言ってまた僕にオススメの本を聞いた。僕は今度は『ぼくは勉強ができない』を貸した。それも読み終えると『桐島、部活やめるってよ』を貸した。

でも、僕と高山さんが学校で話すことはほとんどなかった。僕はいつも一人で本を読んでいたし、高山さんはいつもクラスの中心で友達と楽しそうに笑っていた。僕と高山さんに共通するものなんてほとんど何もなかった。けれども、毎週土曜日は同じベンチに座って本を読む。そんな不思議な関係が、気づくと2か月間続いていた。

僕と高山さんがちゃんと話をしたのは大雨が降った日のことだった。僕は土曜日の朝、カーテンを開けて大雨の降る外を見た。今日は外に出るのはやめた方が良いかもしれないと思ったけれど、もしかしたら高山さんはあの場所に行くかもしれない。高山さんが行くのに僕が行かないのは、なんとなく申し訳ないような気がした。だから僕は雨が弱まるのを祈りながら午前中宿題をして、昼食を食べると一番町に向けてバスに乗った。僕の想いは通じることなく、雨は弱まるどころかますます強くなっていた。

大雨のせいか、ぶらんどーむ一番町にはほとんど人がいなかった。僕はいつものベンチに座ってみたけれど、雨音が凄くてとても本に集中できそうにはなかった。僕は、きっと高山さんもこの大雨ではきっと来ないだろうと思い、すぐ近くにある喫茶店に入ることにした。そしてしばらく喫茶店の中でコーヒーを飲みながら本を読んだ。

ふと顔を上げると、外のベンチに高山さんが座っていることに気付いた。僕は慌てて本をカバンに入れて喫茶店を出た。そして高山さんのいるベンチまで駆け寄ると、「来てたんだね」と言った。高山さんは顔を上げ、僕に気付くと「うん。もう少しでこれ読み終わりそうだったからね。また本借りようと思ってさ」と言って、『アヒルと鴨のコインロッカー』の表紙を僕に見せた。

「でも、雨音が凄くて集中できなかったんじゃない?」

「うん。正直言って全然集中できなかった。雨音も凄いし、それになんか寒いしさ。でも、もし東村くんが来たら何となく申し訳ない気がしてね」

僕は自分が喫茶店の中に入ったことを後悔した。いや、別に僕が悪いことをしたという訳じゃないけれど、それでも自分が高山さんに対してひどいことをしてしまったような感じがした。

「ごめん、僕は高山さんはきっと来ないだろうと思って喫茶店に入っちゃったよ」

「ううん、別にあやまる必要はないよ。だって、私が勝手に来ただけだし。何か約束してた訳じゃないし」

雨は依然としてアーケードに強く降り注ぎ、世界はその雨音だけで包まれていた。僕はなんとなくうつむいてしまい、黙ってしまった。すると高山さんは「それでね、全然本に集中できないから考え事してたの」と言った。僕は顔を上げ、「考え事?」と訊き返した。

「うん。東村くんはなんでいつもここで本読んでるんだろうって。ずっと思ってたんだけどさ、ここで本読むのって、実際そんなに集中できる訳でもないよね? なのに何で、毎週ここに来て本を読んでるんだろうって、ずっと考えてたんだけど、ねえ、どうして?」

僕は、高山さんからそんなことを訊かれるとは思ってもみなかった。僕は言葉に窮してしまった。でも、高山さんだって何だかんだ言って毎週ここに本を読みに来ていたのだから、ここで本を読むの気に入っているんだと思っていたのだけれど。

「教えても良いけど、笑わない?」

「うん。笑わないよ」と高山さんは穏やかな顔で応えた。そして「まあ座りなよ」と言って自分の座っているベンチの右側を2度手のひらでたたいた。僕はそれに応えるように、高山さんがたたいた場所に腰を掛けた。そして一息つき、ゆっくりと「僕は、良い奴になりたいんだ」と言った。

「良い奴? それって、どういうこと?」

「どういうことって訊かれると、うまくは答えられないんだけど、とにかく僕は良い奴になりたいんだ。小さい子供がプロ野球選手やお医者さんになるのに憧れるみたいに、僕は良い奴になりたい」

僕がそのことを人に話すのはそれが初めてだった。こんなことはきっと誰にも言えないと思っていた。でも不思議と何故か、高山さんになら話しても良いような気がした。僕は高山さんの顔を見た。いつもと変わらない、とても穏やかな表情をしている。

「『良い奴になりたい』か、なんとなく分かる気がする。それに、東村くんの口からそんな言葉が出てくると、すごくピッタリ合ってるような気がするよ。でもさ、それとここで本を読むのと、どんな風に繋がるの?」

「こんなことを言うのもバカみたいかもしれないけれど、こうやって人通りの多い場所で本を読んでいれば本を読む僕の姿を見た誰かに、『自分も本を読もう』って思ってもらえるかなって思って、それで本を読む人がもっと増えれば、きっともっと良い世の中になるような気がするんだよ」

僕は、高山さんの反応を気にしながらそう口にした。辺りには、僕と高山さん以外誰もいない。雨は依然として大きな雨音を立てている。僕は、やはり変な奴と思われただろうかと高山さんの顔をチラリと見た。高山さんは、手を顎に当てて何か考え込んでいるような仕草をしていた。そして「うん。なんとなく分かった気がする」と言った。

「何か月か前に、東村くん私のイヤホン拾ってくれたことあったでしょ? 多分私にバレてないと思ってるだろうけど、私、見てたんだよね、東村くんが私の机にイヤホンをいれるとこ」

確かに以前、高山さんがイヤホンをなくしてしまったと友達に話しているのがたまたま耳に入って、放課後それを探して机に入れたことがある。でも、それは高山さんにはバレてないと思っていたのだけれど。

「東村くんていつも一人で本読んでてあんまり人と関わらない人なんだと思ってたけど 、何でそんなことしてくれたんだろうってすごく気になっちゃって、それから東村くんのことよく観察してたんだよね。それで、ここで本読んで別れたあととかにたまに後を付けてみたりもして、そしたら道に迷ってる人に自分から声かけたりしてる。それがいつも教室で本を読んでる東村くんの姿からは全然想像できなくて、すごい不思議だなって思ってたんだけど、でも、そういうことだったんだね。そうか、東村くんは良い奴になりたいのか。でも、それってやっぱりちょっと変わってるよね」

高山さんはそう言いながら一人納得したように頷いていた。

「自分でも僕は変な奴だなって思ってるよ。でも、自分でもどうしてかは分からないけど、僕はとにかく良い奴になりたいんだ」

「でも、どうしていつもクラスで一人でいるの? 良い奴になりたいんだったら、もっと人と関わろうって思うような気もするけど」

「そう言われるとその通りなんだけど、僕は集団に馴染むのがすごい苦手なんだよ。だから、ほんとはもっと人と関わっていきたいんだけど、せめて間接的にでも人に優しくできたら良いなって思って、こうやってこんなところで本を読んだりしてみてる。誰かがそんな僕の姿をきっかけに本を読んで、それで優しい気持ちになってくれたりしたら、すごい良いなって思って。まあ実際に僕がきっかけで本を読んだ人がいるかどうかは分からないんだけどさ」

「私がいるじゃない」

高山さんは力を込めてそう言った。その声色がさっきまでとは違っていて、僕はびっくりして高山さんを見た。

「私は、東村くんがここで本を読んでたのがきっかけで本を読むようになったし、東村くんの『七夕の月』を読んで優しい気持ちになった。私もうまくは説明できないけど、でも東村くんはきっと良い奴だよ」

高山さんは真剣な眼差しで僕を見つめながらそう言った。僕はその力強さに少したじろいでしまったけれど、高山さんは本当に僕のことを良い奴だと思ってくれているんだということがとてもよく伝わった。それはもちろん、もの凄く嬉しい。

「ありがとう。そう言ってもらえるとすごく嬉しいよ。・・・でも、僕は思うんだけどさ、僕はほとんど人と関わらないけど、それに比べて高山さんはいつも人の輪の中心にいて皆を笑顔にしているでしょ? そういう高山さんみたいな人こそがほんとの良い奴って言えると思うんだ」

僕がそう言うと高山さんは目を丸くして一瞬固まり、それからありがとうと言ってとびきりの笑顔を見せた。僕と高山さんはおよそ2か月の間毎週土曜にそこで顔を合わせていたけれど、考えてみれば高山さんが僕に笑顔を向けてくれたのはそれが初めてだったように思う。僕は高山さんがそんな風に笑うのを、そのとき初めて知った。それは、本当に素敵な笑顔だった。

それからも毎週土曜日になると相変わらず僕と高山さんは同じベンチに座って本を読んだ。相変わらず、僕と高山さんが話をすることはほとんどなかったけれど、僕はその時間が以前と比べとても心地よいものになっているのを感じた。

あのとき僕は高山さんに対して「良い奴」という言葉を使った。高山さんはそれを喜んでくれたようだったけれど、だんだんと僕は、本当はもっと違う言葉を言いたかったのではないかと思うようになった。それが僕の頭の中に違和感として残って、この違和感は何なんだろうと考え続けていると、ある日数学の授業中にふと気づいてしまった。

「高山さんはほんとに素敵な女性だと思う」

僕は高山さんにそう言いたかったのだ。そう気づいてしまってから、僕は高山さんの顔がまともに見られない。

そして昨日もいつもと同じようにベンチに座って本を読んでいた。昨日84日は七夕直前ということもあり、アーケードのいたるところで七夕の準備をしていた。ぶらんどーむ一番町にはいつもより何となくそわそわとした雰囲気があった。僕は隣に座る高山さんが気になってしまい、全く本に集中できない。だから僕はそんな七夕直前の様子に目を向けていたのだけれど、昨日は珍しく高山さんが僕に話しかけた。

「ねえ、東村くんは明日花火見に来るの?」

「僕? 僕が行くと思う? 僕は一緒に花火を見に行くような友達もいないし、うちにいるよ」

「ふ~ん、何かつまんないね。じゃあ良かったら私と一緒に行ってくれない? ほら、ほんものの七夕の月も見てみたいしさ」

僕はその「私と一緒にいってくれない?」という言葉を耳にした瞬間、心臓が飛び出るかと思った。耳が真っ赤になるのを感じた。僕はそんな様子が高山さんにバレないよう、必死に冷静を装って話を続けた。

「僕と? 高山さんはきっとクラスの友達と行くんだと思ってたけど」

「確かに、それも良いんだけどね。でも皆彼氏と一緒に行くから私だけ一人で寂しいんだよね。とにかく、明日の6時にここで待ち合わせね。私、待ってるから」

高山さんはいつもと変わらないとても穏やかな様子でそう言うと、カバンに本をしまって去って行った。

高山さんは、いったいどういう意味で僕を誘ったんだろうか? もしかして、高山さんも僕のことを? いや、そんな訳はない。きっと、本当にただ単純に他に誘う人がいなかっただけなんだろう。でも、それならそれで、充分じゃないか?

僕がいつものベンチに着いたのは6時ちょうどだった。高山さんはもう先に着いていて、いつもと同じようにベンチに座って本を読んでいた。いつもと違うのは、高山さんが浴衣を着ていることだ。その浴衣は高山さんにとてもよく似合っている。高山さんがいつも以上に大人びて見えた。

「ごめん、待った?」

僕が高山さんに近づいてそう言うと、高山さんは静かに本を閉じて僕を見た。

「良かった、来てくれたんだ」

高山さんはそう言うと僕に笑顔を見せた。その笑顔は、大雨が降った日に見た笑顔ととてもよく似ていたように思う。

そして僕と高山さんは隣同士になって西公園へ向けて歩き出した。僕は、隣にいる高山さんをまともに見ることができず、誤魔化すように辺りを見回してみた。辺りは花火を見に来たたくさんの人たちで溢れている。七夕まつりの前日ということで、七夕飾りが飾られているのはまだ一部だけだった。でも、その中でも僕はひときり大きな吹き流しが飾られているのに気付いた。

「ねえ、あそこにおっきな吹き流しがあるよ。七夕の月、見てみようよ」

高山さんもその吹き流しに気付いたようで、そう言うと吹き流しの方に近づいていき、そして中へと入っていった。

「すごい。ほんとに月みたい。ねえ、東村くんもおいでよ」

僕は言われるままに吹き流しの中へ入り、上を見た。そこには、七夕の月が浮かんでいた。七夕の月を、僕は初めて見た。

「これを七夕の月って言うの、何か良いね。なんとなく、2人だけの秘密って感じがする」

高山さんは静かにそう呟いた。僕はその高山さんを見た。高山さんは七夕の月を見上げている。僕らはサラサラと揺れる吹き流しに包まれていて、まるで世界には僕ら2人しかいないようだ。辺りの喧騒も、どこか遠くの世界の音のように感じる。僕はかつて口にすることのできなかった言葉を思い出した。「高山さんはほんとに素敵な女性だと思う。」

気付いた時にはもう、高山さんにキスをしていた。僕は唇の感触に気付いてハッとした。正気になった僕は慌てて体を引く。

「ごめん、いや、違うんだよ、これは間違いというか」

とっさに僕はそう口にした。そして恐る恐る高山さんの顔を見た。高山さんは手の甲を唇にあてて僕を見つめた。いつもと変わらないとても穏やかな様子に見える。

「・・・間違いなの?」

高山さんはとても小さな声でそう口にし、そして僕のことを真っ直ぐに見つめた。

・・・間違いなものがあるもんか。僕は高山さんの目を見つめながら首を小さく振った。そして意を決して高山さんの両肩にそっと手を乗せ、もう一度ゆっくりと高山さんに自分の顔を近づけた。高山さんは、ゆっくりと瞳を閉じる。吹き流しに包まれた小さな世界の中には、僕と高山さんしかいない。僕は一瞬、上を見た。そこには七夕の月が浮かんでいた。七夕の月だけが、僕らのことを見守っていた。だからこの2人だけの秘密を知ってるのは、七夕の月だけなんだ。

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は実在のものとは関係ありません。

参考文献:佐々木ひとみ・作、小泉るみ子・絵『七夕の月』

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