仙台三題噺「泉中央」「楽天イーグルス」「鍵」

 

どうも!仙台つーしんのバラサです!

仙台三題噺はホントに適当にお題を3つ考えてから話を書いてて、何個かの話を同時に書いて行って書き終えたものからアップしてる感じです。

先週から「泉中央」が2週連続で出て来てますけど、そんな訳なのでご了承ください!

「泉中央」「楽天イーグルス」「鍵」

 

仙台では連日30度を超える暑い日が続いている。先日は観測史上最高の37.3度を記録した。仕事をしている間は冷房が効いているから良いんだけど、もう毎晩寝苦しくて仕方ない。仙台には長いこと住んでいるけれど、こんなに暑い夏は初めてだ。

それでも、暑い夏と聞いて僕が思い出すのは高3の夏だ。昨日の夜、蒸し暑くてなかなか寝付けずにいたら、何故かあの日の出来事が蘇ってきた。あの日、僕は真夏の日差しを受けながら高校のグラウンドで一人走っていたんだ。

ゴールラインを越えて、タイムを確認する。24436。よし、自己ベストだ。僕は一人ガッツポーズをして、走ったままの勢いで地面に倒れこんだ。空を見上げる。雲一つない青空が広がっている。少しだけ吹く風が気持ちいい。そして、もう一度タイムを確認する。初めての244秒台。僕だってまだまだやれるんだ。

「今日も頑張るねえ」

その声が聞こえるのと同時に頬に冷たいモノが当たるのを感じた。横を見ると、奈緒がペットボトルを僕の頬に押し付けている。

「サンキュー!」

僕はそう言ってそのペットボトルを受け取り、ほとんど一気に飲み干した。まだ朝の8時前だと言うのに、校庭は地獄のように暑い。

「今日は何してたの?」

「ちょうど今1000mのタイム計って、自己ベスト更新!」

「タイムは?」

24436!」

「はあ~。佳樹もよくやるよね。ホント、尊敬するよ。じゃ、私は先に自習室行ってるから、また後でね。暑いんだから無理しちゃダメだよ」

僕が部室で制服に着替えていると、平が入って来た。

「あっ、佳樹先輩おはようございます! 今日は何やってたんですか?」

「今日は1000mのタイム計って、244秒!」

「マジっすか!? 俺より10秒以上速いっすよ! マジ尊敬します! しかも今から勉強とか、ほんと凄いですよね! 俺も頑張ります!」

「おう! 頑張れよ! でも今日最高気温34度になるってテレビで言ってたから、水分補給とかちゃんとしろよ」

「大丈夫っす。今日はプール練なんで。それにしても今年めちゃくちゃ暑いですよね」

「ホント、暑くて勉強どころじゃないよ。でもまあ、そうも言ってらんないからな。じゃ、僕は行くから、皆にもよろしく。練習頑張れよ」

「おす! 先輩も受験勉強頑張ってください!」

自習室に入ると、すでにたくさんの人が机に座って勉強していた。空いている席を探して回っていると、奈緒が僕に向かって手を振っているのに気付いた。

「こっちこっち、ほら、席取っといたよ」

「おっ、サンキュー。助かるよ」

そうして僕と奈緒は隣り合って勉強を進めた。僕は、自己ベストを更新できたことで気分が良かった。そのおかげかいつもよりも集中して勉強に取り組めた。僕は今までにない手ごたえを感じた。12月までに模試でB判定を取れれば、北海道大学を受験しても良いと親と約束している。なんとか、それまでに間に合うかもしれない。

そんなことを考えていると、奈緒が「ねえ、なんか何か暑くない?」と僕に話しかけた。周りもざわつき始めた。確かに、なんかめちゃくちゃ暑い。

誰かが先生を呼んできて、どうやら自習室のエアコンが故障しているらしいということが分かった。そう分かるや否やすぐに荷物をしまって帰り出す人が現れた。

「ねえ、どうする?」

「う~ん。今からだと図書館行っても席取れないし、家でやろうとしてもチャリで帰ったら暑さでバテそうだし、どっかファミレス行って勉強しようかな」

「まあそうだよね、私も一緒に行って良い?」

「マジで? 行こう行こう!」

「じゃあ泉中央までチャリ載せてって!」

奈緒を荷台に乗せて将監の坂を下り、泉中央へと向かった。途中、歩いて坂を下っている同級生に「ヒューヒュー」とヤジを飛ばされ、奈緒が「うるさい!」と返した。

その時のことを僕は今もよく覚えている。その時、僕はとても切ない気持ちになったんだ。僕は北海道の大学に進もうとしていて、奈緒は地元の大学に進もうとしている。こんな風に一緒にいられるのはあと少しかもしれない。「好きだ」と言いたいけど、今の関係を壊したくない。しかし、タイムリミットは徐々に迫っている。

「ねえ、コレ前は噴水になってたよね? 今日みたいな日にここで水浴び出来たら気持ちいいのに」

自転車から降りてヨーカドーの前を歩いていると、奈緒はそう呟いた。空からは太陽の燃えるような日差しが降り注いでいる。僕は、こんな風に奈緒の隣を歩けるのも、今の内なんだろうと思った。僕が奈緒に好きだと言えるかどうかは分からない。せめて、少しでも奈緒と一緒にいられる時間を増やしたい。

「ねえ、なんか夏らしいことしたくない?」

僕は言った。

「夏らしいことって?」

「何でも良いけど、例えば皆で楽天のナイター見に行くとかさ」

「何それ? 野球なんて興味ないくせに」

「良いんだよ別に、何か急に何でも良いから夏らしいことしたくなったんだよ。高校最後の夏だし、仙台最後の夏かもしれないし。ほら、楽天のナイター見るって、仙台でしかできないじゃん?」

「ほお~? 北海道に行きたいって決めたのはどちらさんでしたっけ? そんなに仙台がお好きなら仙台で進学したらいかがですか?」

「そんな冷たいこと言わないでさ、皆で行こうよ。絶対楽しいから」

「う~ん。でもまあ確かにそうだよね、せっかく仙台に野球のチームができたんだから、1回くらいは行きたいよね。でも、私は今度の模試次第かな」

僕と奈緒はそう話しながらファミレスに入った。あの時、例えば2人で花火に行こうと誘えば、奈緒は一緒に行ってくれたんじゃないか。もちろん、それは今となっては分からないんだけど。

ファミレスで、僕はあまり勉強ができなかった。本当は2人きりでデートに行こうと誘いたかったのに、つい「皆で行こう」と言ってしまう自分が不甲斐なかったし、せっかく今こうして2人きりでいるのに、何を話すでもなくただ勉強をするだけというのも悲しかった。でも、奈緒の勉強の邪魔はしたくない。

結局、僕と奈緒はほとんど何も話さなかった。夕方になり、奈緒が「そろそろ帰ろうか」と言うと僕らは参考書をカバンにしまって外に出た。奈緒は地下鉄の駅へ、僕は自転車に乗って家へ向かおうとした。

僕はカバンから鍵を取り出そうとすると、鍵がないことに気付いた。その場所で鍵を閉めて、その後にはファミレスの中にしか入ってないからどう考えたってその辺りにあるはずなのに、いくら探しても鍵は見つからない。

「どうするの?」

奈緒は訊いた。

「うちに予備の鍵はあるから、今日は地下鉄で帰ってまた明日取りに来るしかないかな」

僕はそう答えた。

「じゃあ、一緒に帰ろうよ」

そして地下鉄に乗り、僕と奈緒は勉強の進捗具合について話した。奈緒は、予定よりも勉強が進んでいないらしい。

「私このままだと志望校ダメかも。佳樹が羨ましいよ。この前模試で学年3位だったよね?」

「まあ、一応そうだね。僕はこれでも1年生のときから計画的に勉強してたんだよ。部活に時間を割けるようにさ」

「何それ、何かムカつく。そんなに余裕あるんだったら私に勉強教えてよ」

「え~、僕だって別に余裕がある訳じゃないんだよ。12月までにB判定取れないと受験もさせてもらえないし」

「ふ~ん。まあ佳樹は佳樹で大変なんだね」

奈緒はそう言うと、黙ってしまった。電車は旭ヶ丘駅に到着し、ドアが開く。

「・・・でも、今日佳樹と一緒に勉強したらなんか分かんないけど勉強はかどったからさ、良かったらまた2人で勉強しようよ」

奈緒はそれだけ言って電車の外に出た。そして振り返ると手を振った。

「じゃ、また学校でね」

僕が返事をする間もなく扉は閉まり、電車は富沢駅へと向けて動き出した。

 

僕と奈緒が2人きりで出かけたのは、その日が最初で最後だった。

 

次の日になると学校のエアコンは早くも直されていて、僕は奈緒をファミレスに誘う口実を失った。

僕はまた奈緒と一緒にどこかに行きたいと思った。実際、僕からファミレスに行って勉強をしようと誘ったこともある。でも、その時たまたま近くに他の誰かもいて、皆で一緒に行こうという流れになってしまった。

楽天の試合にも皆で行くことができた。その日は残念ながらボロ負けだったけど、皆で夏の夜を過ごすと言うのはやはり楽しかった。

勇気を出して奈緒をデートに誘うべきじゃないか、僕は何度も考えた。あの日、奈緒は僕に「また2人で勉強しようよ」と言った。だから、少なくとも2人で勉強しに行こうと誘うのは良いはずだ。

でも、仮にそれで僕が奈緒ともっと仲良くなって、付き合えることになったとしても、僕は仙台を離れようとしている。にも拘らずそんなことをするのは、無責任ではないか。

悩みに悩んだ結果、僕は奈緒に「好き」と言うことができなかった。僕は無事北海道大学に進学し、奈緒は、どうしてかは分からないけど、東京の大学に進んだ。

僕は北海道で初めての彼女ができた。僕が就職で仙台に戻ると自然消滅してはしまったけれど。だから奈緒のことは長いこと忘れていた。僕は大学時代ほとんど仙台に帰って来なかったし、たまに帰って来て皆と集まっても、たまたまなのかどうかは分からないけれど、奈緒はその場にいなかった。

それなのに昨日、僕は何故か奈緒のことを思い出した。奈緒のことを思い出すと、何故かとても温かい気持ちになった。とても懐かしい気持ちになった。

だから、今日は何となくあの日のファミレスまで行ってみた。するとあのファミレスは、コインパーキングへと姿を変えていた。泉中央にはセルバテラスや病院ができていて、僕の高校時代とは違った雰囲気になっていた。

そこを歩く、かつての僕と同じ制服を着た高校生、奈緒と同じ制服を着た高校生が、とても幼く見えた。そこに僕は時間の経過を感じた。

僕があの日のことを思い出したのは多分、あの日が僕にとって一番青春らしい1日だからなんだと思う。

僕はあの頃、部活を引退していたけれど走ることに一生懸命で、その分勉強も負けないように一生懸命頑張っていて、何より目の前には好きな女の子がいた。これからきっと、自分はどんどん良くなっていくんだと思っていた。

しかし今こうやって振り返ってみれば、そんな風に思うことのできたあの日こそが、僕が一番輝いていた1日なんだと思う。全然完璧じゃないし、ちゃんと「好きだ」と言えなかった自分は不甲斐ないけれど、それでもあの日が僕にとっての青春だったんだと思う。

僕はあの日から長い間「じゃ、また学校でね」と言って手を振る奈緒の笑顔が頭から離れなかった。夜、布団に入って瞼を閉じると、奈緒の笑顔が蘇ってくた。気付くと奈緒のことばかり考えてしまった。その度に、僕は今恋をしているんだと思った。

こうやって文章を書いてあの日の出来事を言葉にしてみると、僕は多くのことをすでに忘れてしまっていると気付く。あの日の奈緒の笑顔も、今ではほとんど思い出すことができない。そしてこの日のことも、いつかは忘れてしまうのだろうと思うと切なくなる。切なくなるんだけれど、それでもいつかは忘れてしまうんだろう。

そして僕は考える。僕にはもう、青春の日は訪れないのか? 

僕ももう29になったのだから、自分の日々を「青春」と言うことはできないだろう。でも、僕にだってあの日よりも輝かしい出来事をつくることは、まだできるはずだ。

そうは思うけれど、それでも時には自分の青春を懐かしく思う時もある。あの日にもう一度戻りたいと思う時もある。だからこそ、僕はこうやってあの日のことを言葉にして書いている。そうする以外に、僕にできることを知らない。

もちろん、あの日に戻ることはできない。そんなことは分かっている。僕があの日に戻って奈緒に「好き」だと言うことはできない。僕はもう二度と僕の青春を取り戻すことはできない。二度と、永遠に。

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は実在のものとは関係ありません。

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毎週月曜日の朝7時に公開している仙台三題噺ですが、話のストックが切れてしまったのでこれからしばらく公開をお休みさせていただきます。毎週楽しみにしていただいている方には申し訳ありませんが、またの公開を待っていてください!

 

 

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