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数か月前、定禅寺通りで歩いていたら突然可愛い女の子に話しかけられたんだけど聞いて欲しい。

僕が定禅寺通を歩いていると、突然「あの、すいません」と話しかけられたんだ。顔をあげると、そこには信じられないくらい可愛い女の子が立っていた。正直言って、そんな可愛い女の子が僕に話かける用事なんてある訳が無いと思ったし、これは可愛い女の子を使った宗教の勧誘か、マルチ商法の勧誘か何かだと思った。

「あっ、いや、その、怪しい者じゃないんです。こんなこと突然言っても信じてもらえないと思うんですけど、あなたの顔が3か月前に死んだ兄にすごい似てて、つい話しかけちゃったんです」

僕が怪しがっている様子がその子に伝わったのか、その子は慌てた様子で自分は怪しい人間ではないと僕に伝えようとした。

「あの、見てくださいよ、この写真。あなたに似ていると思いませんか?」

そう言って見せられたスマホの写真は、確かに僕によく似ていた。髪形や、メガネをかけているところは僕と違うけど、でもその人はまるで僕と双子かのようにとても良く似ていた。

「確かに、、、僕によく似ていますね。この写真を見たら、あなたが僕に話しかけたくなった気持ちもわかるような気がします」

僕がそう言うと、その女の子は胸に手を当ててホッとした顔を見せた。

そして、「良かったです。それで、、、あの、良かったら少しお話しちゃだめですか?」と僕に言った。

正直に言って、あんな可愛い女の子に「お話ししちゃだめですか?」と訴えかけられて断ることのできる男はいないと思う。どうやらその女の子は宗教の勧誘でもマルチ商法の勧誘でもないと分かったからには、むしろお近づきになりたいくらいだ。だから僕は「良いですよ、どうせ暇ですし。良かったらあそこのカフェにでも入りましょうか?」と言ってその女の子を誘った。僕がそう言うとその女の子は無邪気そうな笑顔を見せた。

喫茶店に入ると、僕はコーヒー、その子はオレンジジュースを頼んで、空いている席に座った。席につくと、その子はもじもじした様子を見せてしばらく沈黙が続いた。僕はその子が話始めるのを待とうと思ったけれど、しばらく待ってもその子は何も話さないので、僕から話し始めた。

「あの、何か話したいことがあったんじゃないんですか?」

僕がそう言うと、その子はもじもじした様子で、「そうなんですけど」とか「そうでもないような」とか、そんなことを言った。僕がなんとかその子の言いたい事を聞き出そうすると、その子はしどろもどろになりながらぽつぽつと自分のことを話し始めた。それをまとめてみると、どうやらこういうことらしい。

僕の顔があまりにも兄に似ていたものだからつい話かけてしまったけれど、普段はどちらかと言うとおとなしい性格で突然話しかけてしまった自分に驚いているし、僕に変な奴だと思われているんじゃないかと思うと恥ずかしくなってしまい、何を話せば良いかが分からなくなってしまった。兄は、4か月前に交通事故で亡くなった。兄が大好きだった自分はとても落ち込んでいる。兄は100mの選手で、インターハイにも出るような有名な選手だった。自分も兄に憧れて100mの選手になり、兄にカッコいい姿を見せたいと思って頑張って来た。今度高校最後の大会があるのだけれど、兄が亡くなって以来気持ちが沈んでしまっている。このままでは全力を出し切れずに終わってしまいそうだ。そうなってしまったら天国にいる兄に申し訳ない。自分がちゃんと頑張っている姿を天国にいる兄に見せたい。だから、もし良かったら僕にその試合の応援に来て欲しい。僕が近くにいれば、兄が見ているような気持ちになって頑張れると思う。そんな話だった。

とっさには信じられないような話だけど、その子の目は真剣だった。僕は「自分はいつも暇で、休日も本を読んでるだけだから、自分なんかが役に立つんだったら是非行かせて欲しい」と言った。すると、その女の子はまたとても嬉しそうな笑顔を見せた。

 

その女の子と連絡先を交換した僕は、後日、宮城野原の陸上競技場に行くことになった。そして連絡先を交換したとき、その子の名前がメミということを知った。僕は大学1年生で、高校3年生のメミさんは僕の1つ下ということになる。

日曜、競技場に行くと、学校の名前の入ったジャージを着た人達や、応援に来た家族など、たくさんの人で溢れていた。私服で、しかも一人でいるのは自分以外見当たらなかった。競技場は熱気に溢れていて、僕はなんだか場違いなところに来てしまったような感じがしていた。僕は指定されたゴールラインの近くの席に座り、競技場に着いたことをLINEで送った。

すると間もなく、メミさんは僕のところにやってきた。

「あの、本当に来てくれてありがとうございます。私の出番はあと40分後くらいです。三田さん(これは僕の名前だ)にはただここから私が走るのを見守っていて欲しいんです」

メミさんは、この前のもじもじしていた様子とは打って変わって、凛々しい姿をしていた。高校最後の試合と言っていたから、気合が入っていたんだろう。

僕は「分かりました。精一杯応援しています。頑張ってください」と言った。メミさんは、真剣な眼差しで「頑張ります」と返した。

メミさんが僕に来るように指定したのは、100m決勝の時間だった。決勝に進出するためには、予選、そして準決勝を通過しなければならない。だから、メミさんには決勝に進出する自信と、覚悟があったんだと思う。

僕は時間まで本を読んで時間をつぶそうと思ったのだけれど、周囲ではみんな大きな声を出して選手を応援していた。僕はその迫力に負け、ついつい競技に目が行ってしまった。選手たちは、皆真剣な表情をしていた。全力を尽くしているということが、僕にでも簡単に分かった。それは普段僕のいる世界とはまるで違う世界だった。

そんなことを考えていると、あっという間に女子100m決勝の時間になった。

アナウンスがスタートラインに立った選手一人一人を紹介していった。メミさんの番になると、彼女の学校の仲間たちが「メミファイト!!」「メミさん頑張ってください!!」と大きな声を出して彼女に声援を送った。メミさんはそれに手をあげて応えた。そして次の瞬間、メミさんは僕のいる方向を見た。僕は思わず、「頑張れー!」と大きな声を出した。その声が届いたのか、メミさんは一瞬固まったようになり、その後に深々とお辞儀をした。

 

「オンユアマーク、セット」

 

スターターの合図とともに、会場が一瞬の間に静寂に包まれた。そして、ピストルの音が会場に鳴り響く。

4レーンにいた選手がさっそく前に抜け出した。7レーンにいたメミさんは、スタートを失敗したのか、他の選手よりもわずかに後ろに遅れた。4レーンの選手はどんどん前へと進む。一方で、他の選手はほとんど横一直線に並んでいた。出遅れたメミさんはその集団にどんどん近づいて行き、集団から遅れた一人を抜かした。

周囲では各々が応援している選手の名前を叫んだり、大きな声で「ファイト!」と言ったりしていた。僕も、「ファイトー!」とメミさんに向かって叫んだ。すると、その瞬間にメミさんがまた一段階速くなったように見えた。もちろん、それはただの僕の勘違いなのかもしれないけれど。

次の瞬間、会場には「おぉぉー!!」という歓声が上がった。どうやら4レーンの選手がゴールしたみたいだ。メミさんもラストスパートをかける。そして、前の選手を追い抜いたかどうかというところでゴールラインを超えた。

会場のアナウンスが、大会新記録が出たことを告げた。先ほどの歓声は、どうやらゴールタイマーが示す記録に向けられていたようだ。

僕はゴール地点後方で、両膝と両手を着いてうつむいているメミさんを見た。彼女の呼吸に合わせて、彼女の体が大きく上下に動いている。メミさんは一体今何を想っているんだろうか? この結果は、メミさんにとって良いものだったんだろうか? もちろん、ほとんど通りすがりみたいな僕には、そんなこと分からなかった。

やがてメミさんは立ち上がり、ゆっくりと僕の方へ近づいて来た。メミさんは応援席にいる僕を見上げ、そして深々とお辞儀をした。それはとても綺麗なお辞儀だった。僕はそのとき、メミさんが「天国にいる兄にカッコいい姿を見せたい」と言っていたのを思い出した。だから僕は、メミさんが顔を上げると、メミさんに聞こえるように「カッコ良かったよ」と言った。メミさんは僕を見て、涙を必死にこらえるような顔を見せ、そしてまた深々とお辞儀をした。そして、顔を上げると、今度は僕のことを見ることなく競技場の外へと歩いて行った。

メミさんが競技場の外へと歩いて行く様子を僕は観客席から見守った。そして、何だか自分の胸が熱くなっていることに気が付いた。自分が今この場所にいることに、何だか運命めいたものを感じた。こんなことを言ったら恥ずかしいけれど、僕は何かの運命に導かれて、きっと今ここにいるんだろうと思った。

やがてアナウンスが先ほどの結果を伝えた。メミさんは7位だった。周囲の会話から想像するに、どうやら6位以内に入ると東北大会に進むことができたみたいだ。だからメミさんは、この先の大会に進むことができなかったんだろう。

 

しばらくしてメミさんが姿を現した。目にはたくさんの涙を流した跡があった。

「三田さん、本当にありがとうございました。スタート前に声をかけてくれたのも、最後に『ファイト』って言ってくれたのもちゃんと聞こえてました。本当に嬉しかったです。結局、インターハイにも、東北大会にも行けずに終わっちゃったんですけど、悔いはありません。きっと三田さんのおかげです。本当にありがとうございました」

そんなことを言う彼女に、僕はなんて声をかければ良いか分からなくなった。僕がただたまたまメミさんの兄に似ていたからというだけでこんなに感謝されて、胸の熱くなるレースを見せてもらって、むしろ、お礼を言いたいのは僕の方だった。

「お礼を言いたいのは僕の方です。陸上競技を観るのは初めてだったんですけど、メミさんが頑張ってる姿を見たら、何だか胸が熱くなりました。きっと、天国のお兄さんもメミさんの頑張ってる姿が見れて喜んでいると思いますよ」

僕がそう言うと、メミさんはさっきと同じように目いっぱいに涙を浮かべ、泣くのを必死にこらえるような顔をした。でも、それはすぐ限界を迎え、メミさんの目からはたくさんの涙が溢れてきた。メミさんは嗚咽をあげて涙を流し、「お゛兄゛い゛ちゃ゛ーん」と言って僕に抱き着いて来た。

僕は微笑ましい兄妹を見るかのような周囲からの視線をたくさん感じた。そんな僕自身は、どうしたら良いのかが分からなくていささか困ってしまったけれど。

 

その日の夜、メミさんからLINEが来た。

「今日はお見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありませんでした。もし良ければ、今度お礼にご飯をごちそうさせていただけませんか? 一番町で美味しいランチが食べられるカフェがあるんです」

僕に、断る理由は何もなかった。

 

そして僕はメミさんとランチに行った。

お店に入って席に座ると、メミさんはまた丁寧にお礼を言った。兄が亡くなって以来ずっと気分が沈んでいたけれど、この前のレース以来また前を向いて行こうと思えるようになった。部活はこれでキリを付けて、これからは受験に向けて頑張っていこうと思う。メミさんは僕にそんな話をしてくれた。

僕は、自分が札幌の出身で、地元から遠く離れたところで暮らしてみたいと思い、でも東京ほどの都会には行きたくないと思って仙台に来たこと、自分はメミさんとは違っていつも家の中にこもって本ばかり読んでいることを話した。

メミさんの志望校は、なんと僕のいる大学だった。話の流れで、今度は僕がメミさんに勉強を教えることになった。僕としてはそんな流れになったのは不思議で仕方がなかったけれど、彼女がまた僕に会いたがっているのは明らかだったし、例えそれが僕がたまたま彼女の兄に似ているだけだったとしても、僕にそれを拒む理由はなかった。

お店を出て、お互いに帰る方向が途中まで同じで、一緒に定禅寺通を歩いた。仙台に来て以来、ほとんど人と接することなく過ごしてきたけれど、こんな風に思わずメミさんと一緒に歩いていることが不思議でならない。

「私、三田さんと同じ大学に通えるように、一生懸命勉強頑張りますね」

隣にいるメミさんがそう呟いた。僕はメミさんにどうやって勉強を教えようかと考えた。そうして、メミさんにまた会えることを楽しみにしている自分に気が付いた。

「僕も、メミさんにしっかり勉強教えられるように頑張るよ」

僕の目には定禅寺通のケヤキ並木が映っていた。太陽の日差しが降り注ぐケヤキ並木がとても眩しい。それは、僕の目にとても綺麗に映った。

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません

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